2004川名中学卒業式祝辞  「心のキャッチボール」
卒業生の皆さん、本日はまことにおめでとうございます

こうして晴れの卒業式を迎えられ、

ご父兄のみなさま、先生方々、ともに、感ひとしおのことと思います



三寒四温とはよくいってもので、

寒くなったり、あたたかくなったりもするこの頃でありますが

梅はあちらこちらで咲き始め、桜のつぼみは膨らみ、春はもうそこまで来ています

みなさんの春は、今日が本番なのかもしれません



私は、僭越にもPTA会長を3年もやらせていただきました

にもかかわらず、みなさんとはお会いする機会がなかなかありませんでした

どこかでお会いしているかもしれませんが、

私は、実はこの川名中学校の卒業生です。

今からちょうど31年前に、この同じ体育館で卒業したひとりであります

今日は、みなさんにお祝いの言葉を、ということでこの壇上におります

ちょっと偉そうなことを言うかも知れませんが、一先輩のアドバイスとして聞いてください

卒業生のみなさんの中には、もう進路の決まった人もいれば、

まもなく行われる公立高校受験で、気もそぞろの人もいると思います

みなさんどんな状況であろうと、どうか凛として、それぞれの明日にむかって頑張ってください

もしへこんだとしても、大丈夫です

川名中学でがんばって来たみなさんなら、すぐにでも立ち直ることと信じています



さて、今日はキャッチボールの話をしたいと思います

みなさんはキャッチボールをしたことがありますか?

普通キャッチボールとはお互い向き合って野球のボールを投げたり受けたりするものですよね

野球に興味がないとなかなかやらないものですが、

この単純なキャッチボールは実はとても大切で重要なことなのです

野球のボールだけでなく、心のキャッチボールをしたことがありますか?

ということが今回お話したいテーマです

心のキャッチボール、それが親子だったり、先生と生徒だったり、

かけがえのない友達同士ということもあります

この心のキャッチボールを一度もしたことがないのなら、

是非、みなさん意識してやってみましょう



どういうことかというと、

時間や感動をお互い投げ合って共有するのです

とにかく投げようとすること、それを受け止めようとすること、

その繰り返しをすることで、何かがみえてくるはずです

ちゃんと投げないと、相手は受け止めにくいです

でも、変なボールが来ても、「あ、今日はちょっと調子悪いんだな」とか

今日は絶対まっすぐなボールを投げたいんだな、

といった相手の気持ちがわかるようになります



親や先生が怒る時は、実はほとんどが大人の勝手な自分の都合の場合が多いのかもしれません

ところが、このキャッチボールを普段からしていれば、

みなさんはジャンプしたり、しゃがんだりしてそのイレギュラーボールをキャッチできるようになります

反対に、みなさんのむしゃくしゃした気分のボールを、ただ投げてくれさえすれば

相手は、一度は通った経験上、みなさんが思う以上に案外受け止めてくれるものなのです



肝心なのは、普段からキャッチボールをしているかどうか、ということです

そうすれば、相手が疲れているところに、剛速球を投げたり、

方向はずれのボールを何球も投げたりすると、

ああこれはまずいな、 無理かな という感覚もわかってきます

でも、みなさんを愛する人たちは、なんとかしてその投げられたボールを捕ろうとするんですよね、

そこがいいところなのかもしれません

反対に「勉強しなさい」っていうのは、キャッチボールではなくドッジボールだそうです

一方通行の言葉がけは、あたってどこかへ飛んでいくのが落ちで

言われて勉強をしてもおもしろいはずがありません



こういう話があります

コピーライターの糸井重里さんが、自分の娘さんと、あの巨人軍の桑田投手と

キャッチボールをする場に居合わせる機会があったそうです

当時10才だったそのお嬢さんは、キャッチボールは何回もやったわけではないのですが

当然のことながら桑田投手のキャッチボールは完璧で、

美しいフォームから繰り出されるボールは美しい弧を描き、

お嬢さんの構えたグローブにピシリとおさまったそうです

そしてその綺麗なピシリ、ピシリが繰り返されるうちに、

お嬢さんは目に見えてキャッチボールがうまくなっていったそうです



教える、ということはそういうことなのでしょう

ボールの握り方だとか、腕の振り方なんてものを講義しなくても、

それだけでキャッチボールを身につけることができるのです

親や、先生は、いつまでもみなさんを子供だと思って、どこまでわかっているのか、

どこがわかっていないのか、それを確かめながら共感しながら、

やりとりしてくれる人が意外と少ないのかもしれません

みなさんは、それをとても悔しく思っているのではないでしょうか

でもぜひ、その対策としてもキャッチボールをしましょう

共感しながら、順番に歩いていけば、誰でも前進できるはずです

生まれてこのかたキャッチボールを一度もやったことのない人、

最初は照れくさいかもしれませんが、キャッチボールをしていくと、

あっ、人とは、こうやってつながっていくんだ ときっとわかるはずですから・・・・



偉そうなことをいいましたが、

最後に私はPTA会長を3年もやったので3回も卒業式に出させていただきました

その毎年卒業式で言ってきたことを今年もみなさんにもお話しします

川名中学を卒業して、みなさん、いつかクラス会か同窓会を開いてください

小学校や中学の友達がどれだけ素敵なものか、よーくわかりますから

今年お正月に私は幹事になって実に30年ぶりに同期の川名中学卒業生同窓会を開きました

当時279名の同窓生のうち102名が集まり、それはそれは大盛況でした

昼から始まった同窓会は、12時間以上たっても永遠に終わらないかと思うくらい話は尽きませんでした

同窓生はみんな、それはいろいろな仕事についていましたが、友達に職業は関係ありません

でも みんな生き生きワクワクしていました

友達は勇気や元気をくれます

2年前、入学式でもお話したのですが、がんばろうという欲があるのなら、

友達を助ける力を持っていたほうがいいです

困った友達を前にして、「よーし任せておけ!」と言えるよう

そういうときのために勉強もしておいた方がいいことや、教わっておいたほうが楽しいこともあるんだ、

ということを是非覚えておいてください

卒業式をひとつの機会にしてこれからいろいろな人と 

いっぱいキャッチボールをしてください

それから、友達を助けるためにも、いろいろな意味で勉強していってください

人間、一生勉強です

そうして、何年後かに、笑顔でみなさん集まってください



桑田投手じゃないですが、それぞれの得意な美しいフォームのキャッチボールができる

友達がきっとそこにいることを心から祈念して

私の祝辞とさせていただきます



本日は、本当におめでとうございました



2004.3.8(火)

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