新しい眼鏡
 私、最近、あるめがね屋さんでめがねを買いました。
 それは、私にとって貴重な体験でした。
 実は今使っているめがねの度が合わなくなっているようなので、視力検査を兼ねてその店に行きました。近頃のめがねは、小型のフレームが流行なんですね。野球の長嶋監督のめがねなんかもかなり小さめですよね。
 店頭に並んでいるフレームの中からいくつか選んでいたら、店長さんがそばに寄ってきて、いろいろアドバイスをしてくれました。それでもなかなか決めかねていたのですが、いつの間にか店長さんがいなくなっているのです。どうしたのかなあと思っていると、奥から何か持ってきました。そして、
 「お客さん、すいませんけど、このめがねかけていただけません?」
 とめがねを差し出しました。
 見ると彼が持ってきためがねは、縁なしで、しかもフレームが変わった色(淡いオレンジ色)をしています。私は、学生時代からオーソドックスなめがねしかかけたことがないし、以前、試しに縁なしめがねをかけてみたら、全然似合わなかったので、自分ではまず絶対に選ばないものです。ところが、彼は言うんです。
 「実は私もこれと同じタイプのものをかけているんです。どうです? 若く見えませんか?」
 彼は私よりも少し年上のようです。髪の毛もかなり白髪が多い。なのに確かに私よりも若々しく見えるのです。

それで、まあかけてみるかということで、かけてみたんです。

で、鏡を見た途端につぶやいていました。
 「いいじゃん!」
 いや、本当にそう思ったんです。ですから、ある意味びっくりしました。それまで自分で選んでいたモノよりもずっといいのです。
 私は値段も見ないうちに、そのデザインのめがねを買おうと心の中で決めていました。念のために値段を聞くと、何と私の予算の3倍近くもするのです。それでもそのめがね以上に気に入るモノがなかったので、結局それを買うことにしました。
 高かったけれど、満足です。というより、何だかワクワクしていました。そのめがねは、自分だったら似合わないと思い込んで絶対に選ばないものです。その店長さんが、新しい世界を切り開いてくれたのです。
 私はめがねを買ったことを息子たちには内緒にしていました。このめがねが出来上がったら、彼らはきっと驚くだろうなあと、密かにその日を楽しみにしていました。そして、先日めがねが出来上がってきました。私は何気ない振りをしていましたが、まず次男が気づいたようです。ちょっと離れたところからこちらを見て「あれっ?」と言うのです。私は内心にんまりです。すると、長男も「へえ、いいねえ!」
 そのときの私の満ち足りた気持ち、わかっていただけます?
 私の人生に“ワクワク”を加えてくれるものを教えてくれたのは、その店長さんです。
 ここです。これが重要な商売の原点です。これが、商品を売るということ。
 重要なのは、「売る」ということは、「教える」ことだということです。
2004410日)