キャッチコピー
アテネオリンピックが始まりました。
初日から日本選手が毎日金メダルを取っているおかげで、大いに盛り上がっています。新聞でオリンピックの成績を取り上げるスペースもかなり大きくなっており、プロ野球やJリーグがすっかりかすんでしまっています。
有名選手が金メダルを取ると、スポーツ新聞の1面は間違いなくその記事です。
そういった新聞の大見出しをみると、面白いキャッチコピーが目立ちます。その主なものを挙げてみましょう。
・「谷でも金」
女子柔道48s級で金メダルを取った谷亮子選手が言った「田村で金、谷でも金」がキャッチコピーに使われたものです。谷亮子選手は、結婚する前のシドニーオリンピックで金メダルを取っていますが、結婚して姓が谷に変わってからも見事に金メダルを取りました。オリンピックが始まる前に、マスコミの取材に応えて「田村で金、谷でも金」と目標を話したのですが、実にうまいことを言うものです。
彼女は前回のシドニーオリンピックの時にも目標を聞かれて「最高で金、最低でも金」という有名な言葉を残しています。
同じ日に、男子柔道60s級で野村忠宏選手が前人未踏の3連覇を達成していますが、2連覇の谷選手の方が大きく取り上げられています。単純に考えると、3連覇の方が数倍難しいことだと思いますが、谷選手はオリンピック前の合宿練習で、数日間立つこともできないくらいの大けがをして、今回は金メダル獲得が危ぶまれていました。そのせいで、谷選手の金メダルは、野村選手の3連覇よりも価値があると思われたのでしょう。
・「気持ちイイ〜。超気持ちイイ〜!」
水泳の北島康介選手が100m平泳ぎで金メダルを取った直後のインタビューでの第一声。
おそらく、「気持ちイイ」という感想が出てくることを予想した人は一人もいなかったと思われます。金メダルを取ることが気持ちイイということは、本人以外にはわからないことでしょう。
水泳では、シドニーオリンピックで、田島寧子選手が銀メダルを取った直後に言った「めっちゃくやしい〜。金がイイです〜ぅ。」が有名です。
日本水泳勢で第1号のメダル獲得ですから、ほとんどの人が「うれしいです〜ぅ」といったコメントを予想していたのに、「めっちゃくやしい〜」という意外な答えが返ってきたため、強烈な印象を残したものです。
こうして考えていくと、印象に残る言葉、キャッチフレーズに関して、「意外性」というキーワードが浮かんできます。
以前にも紹介したことがありますが、「エッ?」とか「アレッ?」と意外に思うことを認知的不協和と言います。
もう12年も前のバルセロナオリンピックでのことですが、男子マラソンの谷口浩美選手がレース中給水時に他の選手と接触して転倒しました。そのせいもあって結果は8位に止まりました。さぞや悔しい思いをしているだろうと思っていたら、インタビューでは明るい表情で「こけちゃいました」と言ったのです。これも忘れられないコメントです。
同じくマラソンでは、シドニーオリンピックで女子陸上初の金メダルを取った高橋尚子選手がレース後に言った「楽しい42qでした」も意外性十分でした。これまであの苦しいマラソンと楽しいという言葉が結びつくことは考えられませんでしたからね。
シドニーの前のアトランタオリンピックにおける女子マラソンで銅メダルを取った有森裕子選手が「自分で自分をほめてあげたい」という有名な言葉を残しましたが、私たちはマラソンが過酷なものだと思っていますから、この有森選手の言葉を感動を持って受け入れたのです。
高橋選手の言葉は、いわばそれと正反対のコメントですから、意外だったのです。その意味では、今回の北島康介選手の「気持ちイイ〜」と共通するものがありそうです。
この意外性は、広告におけるキャッチコピーを考える上で大いに参考になります。
キャッチフレーズ・マーケッターの荻野氏が、最近の新聞広告の中から印象に残ったキャッチフレーズとして、次のものを紹介しています。
トマトと肺。
トマトと人の間には、まだ知られていない事実がある。
−−−−−−−−−濃い赤、リコピンの力。
広告主:カゴメ、掲載媒体:2004/8/5 日経新聞 朝刊
このキャッチフレーズのつかみは、意外な組み合わせです。コトバとしては、とても静かで、ポーンと投げ出したようなキャッチフレーズです。
しかし、「トマトと肺。」という、その意外な組み合わせに、コレは何? と思わせる力があるのです。
(2004年8月16日)