▼この欄に定期的に「いい話」を送ってくださる名古屋の会社員、 志賀内泰弘さんから新作が届いた。 国際テロの悪意で世界が騒然とするなかで、 市井の人の善意がこころを温かくする。そっくり紹介したい ▼頭がおのずと垂れてしまうという岐阜県中濃に在住の女性Yさんの話である。 全国重度身体障害者の「山鳩の会」など、 数々のボランティア活動に生涯をささげてきた。 ご本人は決して語ろうとしないけれど、 おそらく寄付金のトータルはウン億円、いやそれ以上であろう ▼ずっと、お金持ちだと思っていた。ご主人が大きな会社の経営者とか。 ところが、違った。ある社会福祉法人の募金活動をお手伝いしていた時のことだ。 「なかなか集まらなくて。 これなら自分で建設現場で働いて日給を寄付した方が早いかも」 とぐちをこぼした ▼「そうなのよ」と突然、大声が返ってきた。 聞けば、先年、「山鳩の会」の募金が集まらず、困り果てたことがあったという。 その時、他人に頼らず自分で働いて そのお金を寄付すればいいんじゃないかと気づいたそうだ ▼そこで、がむしゃらに働き、あっという間に生命保険のトップセールスに輝いた。 年収は億。そのお金を惜しげもなく困った人々に寄付した。 トロイの木馬伝説にひかれ、発掘費用を稼ぐため商売に励んだ シュリーマンを思い出す。ともに遠回りして夢を実現させた ▼「いい話」を引用しながら、こういう生き方もあるのかと感動した。 「人は何のために働くのだろうか。その答えの一つが、ここにある」 と志賀内さん。同感だ。 2001/09/25 中日新聞社