中日春秋 2001.11.01 朝刊 1頁 1面 (全635字)  --------------------------------------------------------------------------------  「子どもたち、いい詩を読みなさい」。 『ポケット詩集2』を出した童話屋の田中和雄さんの切なる願いだ。 「いい詩というのは、詩人が自分の思いをどこまでも深く掘りさげて普遍 (ほんとうのこと)にまで届いた、志の高い詩のことです」 ▼そう考えるのは忘れられない体験があるからだ。戦時中の小学三年生のとき、 先生が黒板に「雨ニモマケズ 風ニモマケズ…」と書きだした。 宮沢賢治のことは何も知らなかったが、この詩はしみ込むように頭に入った。 暗記は苦手だったのにすっと全文を覚えた ▼それが別の先生には気に入らなかったらしい。 必修の「教育勅語」を暗唱できないことを引き合いに何度もなぐられた 。戦後、高校生になって、いやな思い出は変わる。 哲学者の谷川徹三さんが 「雨ニモマケズ」を「これほど精神の高い詩はない」と書いたのである  ▼「とてもうれしかった。えらい先生に褒められたように思ってね」。 精神の高い詩の本を出したいという田中さんの夢はこのとき生まれたのかもしれない。 三年前発行の第一集『ポケット詩集』の巻頭は「雨ニモマケズ」 ▼まえがきに「いい詩はみな、生きる歓(よろこ)びにあふれています」とある 名古屋市に住む女子中学生は次のような感想を寄せた。 「この詩集を読んでいると『この地球上で生きている』それだけで幸せ、って気がする」 ▼第二集にある谷川徹三さんの長男俊太郎さんの「生きる」を引用したい。 「…いま生きているということ/泣けるということ/ 笑えるということ/怒れるということ/自由ということ…」 中日新聞社